• フランキンセンス(乳香)
  • フランキンセンス(乳香)

フランキンセンス(乳香)

  • 学名
    Boswellia carterii
  • 科目
    カンラン科
  • 主な産地
    ソマリア、エチオピア、イラン、レバノン、中国、ケニア、モロッコなど

植物の特徴

フランキンセンスは、カンラン科の常緑低木から出る樹脂のことです。樹皮の内側に樹液を蓄える性質があり、この樹皮に傷をつけると、精油の原料になる樹脂が得られます。この樹脂は乳香と呼ばれ樹脂の色に由来し、英語ではフランキンセンスといい古いフランス語に由来があります。昔から大変貴重なものとして知られ、イエスが生誕した際に贈り物としてささげられたことでも有名です。その他にも美容目的や、治療にも役立てられていました。フランキンセンスの原産地は中東で、広く中国、エチオピア、イラン、レバノンに生育します。

精油の構成成分

フランキンセンス
  • フランキンセンス

  • 全成分名称
    ニュウコウジュ油
  • INCI
    BOSWELLIA CARTERII OIL
  • 使用部位
    樹脂
  • 抽出方法
    水蒸気蒸留法
  • 採油率
    4-6%(乾燥)
  • ノート
    ミドル~ベース
  • 香りの系統
    レジン

フランキンセンス 精油の特徴

乾燥した樹脂から水蒸気蒸留によって得られる精油は4-6%前後で、薄い黄色をしています。森林浴でよく耳にするα-ピネン、β-ピネン等が主な成分で、最初は森のような清々しい香りがしますが、次第にスモーキーでやや甘く、少し胡椒や柑橘を想わせるような深い樹脂の香りが現れてきます。香りはクリアで濁りがなく、深みのある甘さがあります。神聖さと静けさのある穏やかな印象があります。ブレンドでは様々な精油と好相性で、洗練された印象を与えてくれますが、特に深みのある香りやウッディなプチグレン、ティーツリー、ローレルなどと相性が良いです。またレモンやグレープフルーツなどのシトラス、爽快さのあるユーカリなどと組み合わせることで、透明感のある香りに仕上がります。香りは若干弱いため、ブレンドのバランスを見ながら気持ち多めに加えても問題ありません。

精油の構成成分

精油の構成成分

※ロット分析データの一例を記載

  • α-Pinene 36.8%
  • Limonene 13.1%
  • α-Thujene 10.3%
  • Myrcene 8.3%
  • Sabinene 4.2%
  • p-Cymene 4.0%
  • β-Caryophyllene 3.2%
  • α-Phellandrene 2.2%
  • β-Pinene 1.3%
  • other components 16.7%

構成成分の効果・効能・作用

ミルセン

Myrcene

ミルセン
  • IUPAC名
    7-methyl-3-methylideneocta-1,6-diene
  • 分子式
    C10H16
  • 分子量
    136.23 g/mol
  • CAS No.
    123-35-3
  • 分類
    モノテルペン

ミルセンの効果・効能・作用

in slico in vitro ex vivo in vivo
Non-clinical Clinical
Mice Rats Guinea Pigs Insects Human
Anti-oxidant Effects
Anti-inflammatory Effects
Anti-cancer Effects

抗酸化 (Anti-oxidant Effects)

ヒト皮膚線維芽細胞NHDFにおいて、UVB照射することで生成された活性酸素(ROS)レベルが、ミルセン共存下では濃度依存的に低減することが報告されました。1)
その他、ミルセンの抗酸化作用に関して複数報告されています。2) 3)

抗炎症(Anti-inflammatory Effects)

ヒト軟骨細胞HCHにおいて、ミルセンは炎症誘発性サイトカインであるIL-1βによるNO産生を抑制することが報告されました。4)
炎症性腸疾患モデルマウスにおいて、ミルセン投与によりDAIスコア(Disease Activity Index Score)の減少、結腸長さの回復が確認されました。ヒト大腸腺癌細胞HT-29において、TNF-α誘発によるCOX-2、CXCL-1、IL-8mRNA発現がミルセン添加により発現抑制されたことが報告されました。5)

抗癌(Anti-cancer Effects)

ヒト由来癌細胞Helaに対して、細胞毒性を有することが示されました。さらに細胞遊走、細胞増殖速度の抑制、細胞形態の変化への影響が報告されました。6)

  • 1) Hwang, E. et al., The American Journal of Chinese Medicine, 2017
  • 2) Ciftci O et al., Toxicology and Industrial Health, 2011
  • 3) Ciftci O et al., Neurochemical Research, 2014
  • 4) Rufino AT et al., European Journal of Pharmacology, 2015
  • 5) Almarzooqi S et al., molecules, 2022
  • 6) P Luca et al., molecules, 2023

α-ピネン

α-Pinene

α-ピネン
  • IUPAC名
    (+)-α-Pinene: (1R,5R)-2,6,6-trimethylbicyclo[3.1.1]hept-2-ene
    (-)-α-Pinene: (1S,5S)-2,6,6-trimethylbicyclo[3.1.1]hept-2-ene
  • 分子式
    C10H16
  • 分子量
    136.23 g/mol
  • CAS No.
    (+)-α-Pinene: 7785-70-8
    (-)-α-Pinene: 7785-26-4
  • 分類
    二環式モノテルペン

α-ピネンの効果・効能・作用

in slico in vitro ex vivo in vivo
Non-clinical Clinical
Mice Rats Guinea Pigs Insects Human
Stress Reduction
Anti-bacterial Effects
Anti-inflammatory Effects

ストレス軽減 (Stress Reduction)

α-ピネンの香りを吸入したマウスの脳腫瘍が小さくなった一方、α-ピネン添加によるメラノーマ細胞の増殖はみられなかったことから、心理的な影響が考えられることが報告されました。1)

抗菌 (Anti-bacterial Effects)

α-ピネンは青変菌に対して、気体暴露および培地添加の両方において生育阻害効果を示したことが報告されました。2)

抗炎症 (Anti-inflammatory)

RAW264.7細胞においてリポ多糖(LPS)添加により炎症を引き起こす物質である一酸化窒素(NO)の産生が誘導されますが、α-ピネン添加によりNO産生が抑制されることが報告されました。3)

  • 1)Kusuhara et al., Biomedical Research, 2012
  • 2)岡村、木材保存、
  • 3)Kwak et al., Journal of Exercise Rehabilitation, 2019

リモネン

Limonene

リモネン
  • IUPAC名
    1-methyl-4-prop-1-en-2-ylcyclohexene
  • 分子式
    C10H16
  • 分子量
    136.23 g/mol
  • CAS No.
    138-86-3
  • 分類
    単環式モノテルペン

リモネンの効果・効能・作用

in slico in vitro ex vivo in vivo
Non-clinical Clinical
Mice Rats Guinea Pigs Insects Human
Stress Reduction
Memory Improvement
Anti-cancer Effects

ストレス軽減 (Stress Reduction)

4℃環境下で寒冷ストレスを与えたマウスにおいて、リモネン投与群の血中コルチコステロン(ストレスに応答するホルモン)濃度の上昇が抑制されたことが報告されました。また、物理的ストレスと精神的ストレスを与えたマウスにおいて、リモネン投与群の血中コルチコステロン濃度が抑制されたことが同報告にて示されました。1)

記憶・学習 (Memory Improvement)

リン酸緩衝生理食塩水中でアセチルコリンエステラーゼをアセチルチオコリンと反応させる際に、リモネンを加えることでアセチルコリンエステラーゼによる分解が抑制されることが報告されました。アセチルコリンエステラーゼは記憶や学習に関与するホルモンであるアセチルコリンを分解してしまうため、分解を止めることにより記憶障害などを防げる可能性があります。また同報告において、スコポラミン投与によるラットの記憶障害が抑制されたことも報告されました。2)

抗癌 (Anti-cancer Effects)

乳癌患者のリモネン摂取により、細胞分裂に関わるタンパク質であるCyclin D1の腫瘍における発現量が低下したことが報告されました。3)その他、リモネンの抗癌作用に関して複数の報告があります。4)5)

  • 1)Fukumoto et al., Stress and Health, 2008
  • 2)Zhou et al., Nutritional Neuroscience,, 2013
  • 3)Miller et al., Cancer Prevntion Research, 2013
  • 4)Ajikumaran Nair S et al., Phytomedicine, 2018
  • 5)Chaudhary et al., Human & Experimental Toxicology, 2012

IFRA規制

リモネン:
酸化したリモネンは皮膚刺激や皮膚感作を生じる可能性があります。リモネン含有量が高い精油は酸化防止剤の添加などによって過酸化物が最低限(20mol/l)に維持した上で使用すべきと示されています。

※構成成分の規制は、成分の一部を記載

参考文献
ジェニー・ハーディング,精油・植物油ハンドブック,東京堂出版,2010.
大槻真一郎/尾崎由紀子,ハーブ学名語源事典,東京堂出版,2009.
ジェニー・ハーディング,ハーブ図鑑,産調出版,2012.
フレディ・ゴズラン/グザビエ・フェルナンデス,調香師が語る香料植物の図鑑,原書房,2013.
三上杏平,エッセンシャルオイル総覧 改訂版,フレグランスジャーナル社,2010.
小倉謙,植物の事典 ,東京堂出版,昭和32年.
大橋信夫,メディカルハーブの事典 ,東京堂出版,2016年.
ワンダ・セラー, アロマテラピーのための84の精油, フレグランスジャーナル社,1992.
日本アロマ環境協会, AEAJアロマテラピー検定 公式テキスト1級・2級,世界文化社,1999.
ロバート・ティスランド/ロドニー・ヤング, 精油の安全性ガイド, フレグランスジャーナル社, 2018.
バーグ文子, アロマテラピー精油辞典, 成美堂出版, 2022.
アネルズあづさ, 香りを楽しむ 特徴がわかる アロマ図鑑, ナツメ社, 2023.
International Fragrance Association, Limonene, 1995
協力
山本香料株式会社