- 参考文献
- ジェニー・ハーディング,精油・植物油ハンドブック,東京堂出版,2010.
- 大槻真一郎/尾崎由紀子,ハーブ学名語源事典,東京堂出版,2009.
- ジェニー・ハーディング,ハーブ図鑑,産調出版,2012.
- フレディ・ゴズラン/グザビエ・フェルナンデス,調香師が語る香料植物の図鑑,原書房,2013.
- 三上杏平,エッセンシャルオイル総覧 改訂版,フレグランスジャーナル社,2010.
- 小倉謙,植物の事典 ,東京堂出版,昭和32年.
- 大橋信夫,メディカルハーブの事典 ,東京堂出版,2016年.
- ワンダ・セラー, アロマテラピーのための84の精油, フレグランスジャーナル社,1992.
- 日本アロマ環境協会, AEAJアロマテラピー検定 公式テキスト1級・2級,世界文化社,1999.
- ロバート・ティスランド/ロドニー・ヤング, 精油の安全性ガイド, フレグランスジャーナル社, 2018.
- バーグ文子, アロマテラピー精油辞典, 成美堂出版, 2022.
- アネルズあづさ, 香りを楽しむ 特徴がわかる アロマ図鑑, ナツメ社, 2023.
ニオイコブシ
- 学名
- Magnolia salicifolia
- 科目
- モクレン科
- 主な産地
- 日本など
CONTENTS
植物の特徴
ニオイコブシは、モクレン科の落葉高木から低木の一種で、高さ10mほどに育ちます。葉はやや細長い披針形をし、葉の裏が白っぽい色をしています。早春に葉の展開に先だち、3~5月ごろに芳香がある白い花が咲きます。ニオイコブシの名は、花に芳香があり、赤い実が握りこぶしに似ていることから由来しているといわれています。葉を嚙むとほのかに甘みがあるため、別名「カムシバ」と呼ばれ、転訛して「タムシバ」とも呼ばれるようになったそうです。
学名の「Salicifolia」は、ラテン語で「ヤナギ」を意味する「salix」と、「葉」を意味する「folia」の2つが語源といわれています。ニオイコブシのつぼみは陰干しし漢方薬の「辛夷」として使用されており、花は香水の原料として貴重とされています。
ニオイコブシは日本の固有種で、比較的標高の高い山に自生しています。本州から四国、九州まで幅広く分布していますが、主に日本海側に多くみられます。大規模に栽培されているところはないため、精油などの原料となるニオイコブシは、自生しているものが使用されているため、希少な精油としても有名です。
精油の構成成分

ニオイコブシ
-
- 全成分名称
- ー
-
- INCI
- ー
-
- 使用部位
- 葉枝
-
- 抽出方法
- 水蒸気蒸留法
-
- 採油率
- 0.01-0.03%
-
- ノート
- ミドル
-
- 香りの系統
- ハーバル / ウッディ
ニオイコブシ 精油の特徴
精油の構成成分

※ロット分析データの一例を記載
- Methyl eugenol 18.6%
- 1,8-Cineole 17.0%
- Fenchone 6.6%
- β-Pinene 6.4%
- Sabinene 5.9%
- Safrole 5.8%
- Camphene 4.9%
- Myristicin 4.4%
- α-Pinene 4.4%
- Terpineol 3.4%
- Camphor 3.2%
- Limonene 2.7%
- other components 16.7%
構成成分の効果・効能・作用
カンフェン
Camphene

-
- IUPAC名
- 2,2-dimethyl-3-methylidenebicyclo[2.2.1]heptane
-
- 分子式
- C10H16
-
- 分子量
- 136.23 g/mol
-
- CAS No.
- 79-92-5
-
- 分類
- 二環式モノテルペン
カンフェンの効果・効能・作用
in slico | in vitro | ex vivo | in vivo | ||||||
Non-clinical | Clinical | ||||||||
Mice | Rats | Guinea Pigs | Insects | Rabbits | Human | ||||
Anti-oxidant Effects | ○ | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Analgesic Effects | ○ | ○ | |||||||
Anti-cancer Effects | ○ | ○ |
抗酸化 (Anti-oxidant Effects)
ラット肺胞マクロファージにおいて、酸化剤として知られるt-BHP刺激による脂質酸化、NO産生、ROS産生が、カンフェン添加によって抑制されることが報告されました.1)
鎮痛 (Analgesic Effects)
ヒト胎児腎由来(HEK)tsa201細胞株において、痛覚の伝達に関わるT 型カルシウムチャネルを阻害することが報告されました.さらに同報告において、炎症性疼痛モデルマウスの前脚舐め行動の減少や温熱性痛覚過敏度が軽減することが報告されました.2)
抗癌 (Anti-cancer Effects)
マウス悪性黒色腫細胞株 B16F10-Nex2やヒト悪性黒色腫(リンパ節)細胞株 A2058、ヒト白血病細胞株 HL-60などの様々な癌細胞に対して細胞毒性を示し、カンフェン添加によってクロマチンの凝集、DNAの断片化が生じていることからアポートシスを引き起こすことが示唆されました.さらに同報告において、メラノーマモデルマウスへのカンフェン注射によって腫瘍の拡大が抑制されることが報告されました.3)
- 1) Tiwari and Kakkar, Toxicology in Vitro, 2009
- 2) Gadotti et al., Molecular Brain, 2021
- 3) Girola et al., Biochemical and Biophysical Research Communications, 2015
カンファー
Camphor

-
- IUPAC名
- 1,7,7-Trimethylbicyclo[2.2.1]heptan-2-one
-
- 分子式
- C10H16O
-
- 分子量
- 152.24 g/mol
-
- CAS No.
- 76-22-2
-
- 分類
- 二環性モノテルペン(ケトン類)
カンファーの効果・効能・作用
in slico | in vitro | ex vivo | in vivo | ||||||
Non-clinical | Clinical | ||||||||
Mice | Rats | Guinea Pigs | Insects | Rabbits | Human | ||||
Thermal Sensation Inducing Effects | ○ | ○ | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Blood Flow Promotion | ○ |
冷温感効果(Thermal Sensation Inducing Effects)
被験者の皮膚へ塗布後、冷感を感じ、時間経過で温感に切り替わることが報告されました。1)ヒト胎児腎由来細胞HEK293において温度感受性チャネルTRPM8の活性化により冷感作用をもつことが報告されました。2)
血行促進(Blood Flow Promotion)
被験者の皮膚に塗布することにより皮膚、筋肉ともに血流が上昇することが報告されました。1)吸入により大脳皮質の脳血流量が増加することが報告されました。3)
- 1) Kotaka et al., The Pharmaceutical Society of Japan, 2014
- 2) Selescu et al., Chemical Senses, 2013
- 3) 株式会社ファンケル・高砂香料工業株式会社, 特許6660783(特開 2017-171609), 脳血流改善剤
α-ピネン
α-Pinene

-
- IUPAC名
- (+)-α-Pinene: (1R,5R)-2,6,6-trimethylbicyclo[3.1.1]hept-2-ene
(-)-α-Pinene: (1S,5S)-2,6,6-trimethylbicyclo[3.1.1]hept-2-ene
-
- 分子式
- C10H16
-
- 分子量
- 136.23 g/mol
-
- CAS No.
- (+)-α-Pinene: 7785-70-8
(-)-α-Pinene: 7785-26-4
-
- 分類
- 二環式モノテルペン
α-ピネンの効果・効能・作用
in slico | in vitro | ex vivo | in vivo | ||||||
Non-clinical | Clinical | ||||||||
Mice | Rats | Guinea Pigs | Insects | Rabbits | Human | ||||
Stress Reduction | ○ | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Anti-bacterial Effects | ○ | ||||||||
Anti-inflammatory Effects | ○ | ○ | |||||||
Anti-tumor Effects | ○ | ○ | |||||||
Analgesic Effects | ○ | ||||||||
Sleep Improvement | ○ |
ストレス軽減 (Stress Reduction)
ラットに対して、心理的ストレス負荷を与えることで生じる一過性の体温上昇反応が、α-ピネン吸入群では抑制することが報されました。1)
抗菌 (Anti-bacterial Effects)
木材を青く変色させる青変菌に対して、α-ピネンの接触暴露、および非接触暴露の両方において生育阻害効果を示したことが報告されました。2)
抗炎症 (Anti-inflammatory Effects)
マウスマクロファージ様細胞株RAW264.7細胞において、リポ多糖(LPS)によって誘導される一酸化窒素(NO)産生が、α-ピネン添加により抑制されることが報告されました。3)
炎症性疼痛モデルラットにおいて、ホルマリンによって誘導される炎症性サイトカインレベルが、α-ピネン投与により抑制されることが報告されました。6)
抗腫瘍 (Anti-tumor Effects)
C57BL/6マウスにおいて、α-ピネン吸入群では対照群と比較し腫瘍増殖が抑制されたことが報告されました。4)
マウスTリンパ腫細胞株EL-4細胞、およびヒトT細胞急性リンパ芽球性白血病細胞株MOLT-4細胞において、α-ピネン添加により細胞増殖が抑制されることが報告されました。さらに同報告において、C57BL/6Jマウスにおける腫瘍細胞の増殖を抑制することが報告されました。5)
鎮痛 (Analgesic Effects)
炎症性疼痛モデルラットにおいて、ホルマリン刺激による侵害受容がα-ピネン投与により緩和することが報告されました。6)
睡眠の質向上 (Sleep Improvement)
被験者に対して、就床時α-ピネンの香り暴露群で入眠潜時(就床から睡眠開始までの時間)が短くなる可能性が示唆され、さらに睡眠効率(全就床時間中の睡眠時間の割合)が高くなる傾向があることが報告されました。7)
- 1) Kusuhara et al., Biomedical Research, 2012
- 2) 岡村, 木材保存, 2002
- 3) Kwak et al., Journal of Exercise Rehabilitation, 2019
- 4) Kusuhara et al., Biomedical Research, 2012
- 5) Abe et al., Cancer Science, 2024
- 6) Rahimi et al., Brain Research Bulletin, 2023
- 7) Tsunetsugu, Cosmetology, 2018
1,8-シネオール
1,8-Cineole

-
- IUPAC名
- 1,3,3-trimethyl-2-oxabicyclo[2.2.2]octane
-
- 分子式
- C15H26O
-
- 分子量
- 154.25 g/mol
-
- CAS No.
- 470-82-6
-
- 分類
- 環式モノテルペン(エーテル類)
1,8-シネオールの効果・効能・作用
in slico | in vitro | ex vivo | in vivo | ||||||
Non-clinical | Clinical | ||||||||
Mice | Rats | Guinea Pigs | Insects | Rabbits | Human | ||||
Anti-inflammatory Effects | ○ | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Deodorizing Effects | ○ | ||||||||
Anti-malaria Effects | ○ | ○ | |||||||
Anti-oxidant Effects | ○ | ||||||||
Smooth Muscle Relaxation | ○ | ○ | |||||||
Work efficiency Improvement | ○ |
抗炎症 (Anti-inflammatory Effects)
痛風性関節炎モデルマウスにおいて、1,8-シネオール投与群では炎症による腫れが濃度依存的に小さくなったことが報告されました。1)
消臭 (Deodorizing Effects)
スカトールや3-メチルブタン酸などの異臭成分を、それぞれ1,8-シネオールとともに密閉容器内で静置したところ、異臭成分の濃度が減少したことが報告されました。2)
抗マラリア (Anti-malaria Effects)
ヒト脳毛細血管内皮細胞HBMECsにおいて、1,8-シネオール添加によりマラリア原虫が感染した赤血球の付着が減少したことが報告されました。さらに同報告において、マウスマラリアモデルにおいて脳浮腫が抑制されることが報告されました。3)
抗酸化 (Anti-oxidant Effects)
線虫モデルにおいて、1,8-シネオール投与により線虫体内の活性酸素種(ROS)レベルが低下することが報告されました。4)
平滑筋の緊張緩和 (Smooth Muscle Relaxation)
マウスおよびモルモットにおいて、カルバコールによって誘発された気管支平滑筋の収縮が1,8-シネオール投与により弛緩することが報告されました。さらに同報告において、カルバコールによって誘発された気管抵抗が、1,8-シネオール投与により減少することが報告されました。5)
作業能率の向上 (Work efficiency Improvement)
作業能率への影響を暗算課題の正答率の変化を指標に評価したところ、1,8-シネオールの香り呈示状態において暗算課題の正答率が高くなることが報告されました。6)
- 1) Yin et al., Brtish Journal of Pharmacology, 2019
- 2) Henmi et al., Journal of Japan Association on Odor Environment, 2020
- 3) C. dos Santos et al., Plos One, 2022
- 4) Xin Tan et al., Biomedicine & Pharmacotherapy, 2024
- 5) N.R. Nascimento, et al., Journal of Pharmacy and Pharmacology, 2009
- 6) Kawai, Cosmetology, 2007
リモネン
Limonene

-
- IUPAC名
- 1-methyl-4-prop-1-en-2-ylcyclohexene
-
- 分子式
- C10H16
-
- 分子量
- 136.23 g/mol
-
- CAS No.
- 138-86-3
-
- 分類
- 環式モノテルペン
リモネンの効果・効能・作用
in slico | in vitro | ex vivo | in vivo | ||||||
Non-clinical | Clinical | ||||||||
Mice | Rats | Guinea Pigs | Insects | Rabbits | Human | ||||
Stress Reduction | ○ | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Memory Improvement | ○ | ○ | |||||||
Anti-cancer Effects | ○ | ○ | ○ |
ストレス軽減 (Stress Reduction)
4℃環境下で寒冷ストレスを与えたマウスにおいて、リモネン投与群の血中コルチコステロン(ストレスに応答するホルモン)濃度の上昇が抑制されたことが報告されました。また、物理的ストレスと精神的ストレスを与えたマウスにおいて、リモネン投与群の血中コルチコステロン濃度が抑制されたことが同報告にて示されました。1)
記憶・学習 (Memory Improvement)
リン酸緩衝生理食塩水中でアセチルコリンエステラーゼをアセチルチオコリンと反応させる際に、リモネンを加えることでアセチルコリンエステラーゼによる分解が抑制されることが報告されました。アセチルコリンエステラーゼは記憶や学習に関与するホルモンであるアセチルコリンを分解してしまうため、分解を止めることにより記憶障害などを防げる可能性があります。また同報告において、スコポラミン投与によるラットの記憶障害が抑制されたことも報告されました。2)
抗癌 (Anti-cancer Effects)
乳癌患者のリモネン摂取により、細胞分裂に関わるタンパク質であるCyclin D1の腫瘍における発現量が低下したことが報告されました。3)その他、リモネンの抗癌作用に関して複数の報告があります。4)5)
- 1)Fukumoto et al., Stress and Health, 2008
- 2)Zhou et al., Nutritional Neuroscience,, 2013
- 3)Miller et al., Cancer Prevntion Research, 2013
- 4)Ajikumaran Nair S et al., Phytomedicine, 2018
- 5)Chaudhary et al., Human & Experimental Toxicology, 2012
IFRA規制
1,8‐シネオール:
規制なし
※構成成分の規制は、成分の一部を記載
メチルオイゲノール:
皮膚感作や全身毒性を生じる可能性があるため、最終製品での配合制限があります。

※構成成分の規制は、成分の一部を記載
- International Fragrance Association, Methyl eugenol, 2023.