研究トピックス
2026.05.29

かゆみを止める精油科学

THREE ホリスティックリサーチセンター(HRC)では、精油や心・からだ・肌にまつわるホリスティックな力を日々探究しています。
今回は、精油やその成分と皮膚のかゆみについてご紹介します。

  • 皮膚のかゆみ

    ヒトの皮膚は、五感の一つである「触覚」を司る最大の感覚器です。かつて、かゆみは「微弱な痛みの一種」と考えられていたため、視覚や聴覚といった他の感覚に比べて研究が遅れていました。しかし近年の研究により、かゆみは痛みとは異なる神経経路を持つ感覚であることが明らかになっています。
    皮膚の表面が外から刺激(Stimuli)を受けると、そこにかゆみをひき起こす物質(Mediators)が放出されます。その物質が皮膚内に張り巡らされた神経を刺激して、その信号が脊髄を経由して脳に伝わることで、わたしたちは「かゆみ」を認識しています(図1)。現在、かゆみを引き起こす物質は数十種類あることがわかっており、その作用機序は多岐にわたります。ひと口に「かゆみ」と言ってもメカニズムが異なるため、この感覚がどのようにして生まれるのかまだ完全に解明されていません。1)2)

    かゆみを止める精油科学

    図1. かゆみの伝達経路

  • なぜ精油がかゆみを止めることができるのか

    では、精油はこの未知なる肌の感覚にどのように働きかけるのでしょうか。わたしたちは日常生活の中で知らず知らずのうちに、精油成分による「かゆみ抑制」の恩恵を受けています。例えば、市販の「かゆみ止め」に含まれるメントールカンファーは、ペパーミントやローズマリー、セージといった精油に含まれる清涼感のある香り成分です。精油やその成分がどのような働きをしているのか、報告されているメカニズムをご紹介します。

    かゆみを止める精油科学
    かゆみを止める精油科学
  • 精油がかゆみを抑制するメカニズム

    精油やその成分が関係するかゆみを抑制するアプローチは大きく「感覚抑制」と「炎症抑制」の2つのメカニズムに分けることができます。

    ①イオンチャネルへの作用による感覚抑制
    TRPM8の活性化
    「TRPM8チャネル」は感覚神経終末にある冷感受容体です。メントールやボルネオールは、このチャネルを活性化することで冷却感をもたらし、かゆみ感覚を抑制することが報告されています。3)4)5)

    TRPA1の阻害
    「TRPA1チャネル」はかゆみや痛みの感知に関わる受容体です。ボルネオールやカンファーはTRPA1を阻害することが報告されています。4)5)6)

    ②炎症性因子の抑制
    かゆみの信号が脊髄へと伝わると、中枢神経系の免疫細胞であるミクログリアが活性化することがわかっています。マウスにメントールを塗布すると、ミクログリア特異的なタンパク質であるIba1の発現や細胞内シグナル伝達を担うp38 MAPKのリン酸化が抑制されることが報告されています。7)
    メントールやメントンはかゆみをひき起こす炎症に関わるIL-4とIL-10を抑制すること8)、メントールとプレゴンはかゆみを引き起こす炎症に関わるTNF-αを抑制することが報告されています。9)

    その他、最新研究では、マウスを使った実験において、ペパーミント精油の香りを嗅ぐ(吸引する)ことで、かゆみを抑制できる可能性が報告され10)、嗅覚を介したアプローチも期待されています。

  • 最後に

    精油の機能性のひとつとしてかゆみを抑制する作用について調査したところ、複数のメカニズムからアプローチできることがわかりました。HRCでは、精油が持つ複雑で多機能な可能性に今後も注目していきます。

参考文献

1) 椛島健治, 人体最強の臓器皮膚のふしぎ : 最新科学でわかった万能性, 講談社, 2022
2) 順天堂かゆみ研究センター, かゆみをなくすための正しい知識 : 肌トラブルを解消する, 毎日新聞出版, 2020
3) Gonçalves et al., plants, 13, 03515, 2024
4) Tian et al., European journal of pharmacology, 953, 175833, 2023
5) Luo et al., Journal of Ethnopharmacology, 322, 117581, 2024
6) Xu et al., The Journal of Neuroscience, 25(39), 8924–8937, 2005
7) Hung et al., Journal of Ethnopharmacology 356, 2026
8) Zaia et al., frontiers in Pharmacology, 7(170), 2016
9) Hilfiger et al., Frontiers in Pharmacology, 12:753873, 2021
10) Shoji et al., Brain and Behavior, 15(11), 2025