参考文献
- 1) Russell et al., J. Pers. Soc. Psychol. 57(3) 493–502, 1989
- 2) 榊原, 生理心理学と精神生理学 36(1) 28-39, 2018
- 3) Masaoka et al., J. Physiol. 566.3 979-997, 2005
- 4) Sakakibara et al., Psychophysiol. 31(3) 223-228, 1994
香り提示前後に1[不快]から9[快]までの9段階でその時の感情を評価してもらった結果、香り提示後に有意に「快」感情が高くなりました(図1)。また、香りを嗅いでいる時の呼吸周波数を測定すると、香りを嗅ぐ前と比べて有意に低くなり、呼吸が遅くなったことがわかりました(図2)。
n=22, Mean±SE, **p<0.01(t-test)
n=22, Mean±SE, *p<0.01(t-test)
心臓に手を当てるとドクン、ドクン、と拍動が感じられますが、健康な人の拍動の間隔は実は一定ではなく、ゆらいでいます(図3)。ストレスがかかった状態ではこのゆらぎが小さくなり、リラックスすると大きくなります。このような揺らぎのことを「心拍変動」と呼びます。
心臓は自律神経(交感神経や副交感神経)による制御を受けており、その頻度や心拍変動から自律神経の動きを調べることができます。2)
そこで香りを嗅いでいる時の心拍を測定すると、平均R-R間隔(拍動の間隔)とSDNN(心拍変動の程度、すなわち揺らぎの大きさ)が有意に増加しました(図4、表1)。また周波数解析から、副交感神経活動を反映するHF(High Frequency)成分が増える傾向がみられました(図5、表1)。これらの指標から、香りを嗅ぐとリラックスした状態になり、副交感神経活動が高まったと考えられます。
a.香りを嗅ぐ前の心拍変動(代表例)、b.香り提示中の心拍変動(代表例)
香りを嗅いでいる時の高周波成分HF(High Frequency) powerが増加傾向を示した。
a.香り提示前のスペクトル強度(代表例)、b.香り提示中のスペクトル強度(代表例)
以上より、好みの香りを嗅いで心地よい感情になるとゆっくりとした呼吸になり、副交感神経の働きが高くなることがわかりました。
今回の結果は心地良いと感じる香りによって呼吸が深くなるという報告3)や、リラクセーションが副交感神経活動に及ぼす効果4)についての報告と矛盾しないものでした。香りに対する好みはそれまで生きてきた中での経験や嗅ぐ時の身体の状態など、さまざまな要素により変わってきます。その時々の気分に合わせて好みの香りを日常に取り入れてみてはいかがでしょうか。