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株式会社 緑門
「もったいない」を「ありがとう」に、茶の実から始まる茶産業改革。
ー逆境から生まれた思いを形に。茶の実ストーリーに迫るーVol.3
私たちが日頃親しんでいるお茶。その茶の木にできる”茶の実”について、知っている人はあまり多くないかも知れません。それもそのはず、茶の実は美味しい茶葉を作るためには必要とされないことから、茶業者の間でも使用されず、一般の人の目に触れることはなかったのだそう。株式会社緑門の下山田力さんは、そんな無価値とされてきたもののポテンシャルに目を向け、耕作放棄地を使って栽培を広げています。このコラムでは全四回に渡り、茶の実や緑門の活動についてご紹介します。今回は茶の実と出会うまでの下山田さんの人生のお話を振り返り、どのような経験が今の活動に繋がっているのか紐解きます。
株式会社緑門 代表取締役
茶の実の栽培から茶の実油の製造、ジェノベーゼなどの商品開発までを手掛ける株式会社緑門を創業。これまで茶産業で取り上げられることのなかった茶の実に着目し、耕作放棄地を再利用した栽培を全国で広げながら茶の実油づくりを普及している。また各地で生産に取組む有志と日本茶の実油協会を立ち上げ、茶の実の品質向上と市場の創出および、全国で茶の実油の生産者人口を増やす為に活動する。
Vol.1とVol.2では茶の実についてや、株式会社緑門についてお伺いしてきました。ここからは下山田さんの茶の実に出会うまでのお話をお聞かせください。
緑門を立ち上げる前は、一般企業に勤めていました。高専在学中に休学してワーキングホリデーでオーストラリアに遊びに行って、新しい世界を知り「自分で何かを始めたい」とは思っていたものの、なかなか一歩を踏み出せずに復学してから普通に就職活動したんです。そうしてサラリーマンとして働いている時に潰瘍性大腸炎を患い、症状も重かったので3ヶ月入院したんです。大袈裟かもしれませんが、初めて死を意識した経験でした。一番辛かった時期にはご飯が食べられなかったり身動きもできなかったり、「このまま人生が終わってしまうのかもしれない」と考えていましたね。病気が快方に向かい始めて体調も回復してきた頃に、一度きりの人生なんだから「自分で何かをしたい」という気持ちに正直になろうと思ったんです。そんな時にちょうどオーストラリア滞在時にルームメイトだった友人とたまたま連絡を取り合っていて、彼も同じ考えだとわかり二人で新しいことに挑戦するのを決意しました。
ご自身の経験が大きな一歩を踏み出す後押しになったのですね。体調を崩したことがきっかけで、健康のためのオーガニックな食品に着目されたのですか?
そうですね。健康な体を失って初めてその有り難みに気づかされました。病気を患ったことは、今の活動に大きく影響していると思います。偶然にも、一緒に起業した友人も事故での怪我や病気を経て、健康な体を作ることにフォーカスしたビジネスを始めようとしていたんです。そうして二人で具体的に何をしようかと考えていた時、オーストラリアで過ごした経験から、日本文化を通して健康的な食品を海外に発信していくのがいいのではないかというアイデアに辿り着きました。やっぱり海外で興味を持たれるのは、日本の文化のこと。そこからいつの時代も日本人の暮らしに根ざし健康面でも重宝されてきた”お茶”を世界に届けることを目指し始めました。そのような背景で偶然出会ったのが茶の実です。お茶は日本人の生活にかかせない必需品ですが、茶の実は世間にはあまり知られていませんでした。海外にも日本にも発信していけるようなコンテンツとして、茶の実に着目したんです。
そのような経緯で始められた株式会社緑門ですが、茶の実についてさまざまな取り組みをされていく上でどのようなこだわりを持たれていますか?
健康のための食品づくりという点では、出来る限り化学的な処理をせずに、どれだけ自然に近い状態で茶の実を栽培しお客様にお届けできるかを大切にしています。人が手を加えるのには様々な理由があるので、例えば農薬を使用するのも一概に悪いことばかりだとは思いせん。しかしやはり人の体に与える影響を考え、私たちは農薬を使わない栽培方法を選びました。そのため効率も悪く手間もかかるし、次々に立ちはだかる壁を乗り越えようと日々挑戦している最中です。
健康は株式会社緑門にとって大きなテーマですね。そのほかで大切にされていることはありますか?
「もったいない」を「ありがとう」にというのは、一つの合言葉になっていますね。元々茶の実の栽培に耕作放棄地を活用できることに大きな意味を感じていました。茶産業で起こっている問題は第一次産業でも大きな課題となっています。茶畑が荒れているのには理由があって、茶葉などの作物を収穫するのにもコストがかかるんです。農業全体で見ても売り上げに繋がらないので収穫をしすぎても赤字になっています。そういう側面からも考慮された上で、使うことができない耕作放棄地が増えています。私たちはそこに可能性を見出し、新しい価値をつけていきたいと考えています。
下山田さんご自身が茶の実との出会いを経て変化したり、気づかされたりしたことはありますか?
茶の実が多くの方に認知され、プロダクトとしてお客様に届けることができるようになるまで、とても長い道のりでした。やっぱり心が折れそうになったり諦めようかと思ったこともありましたね。でも、そんなときに活力になるのは多くの方の応援でした。当時、茶の実があまり目を向けられてこなかった経緯から、同じような取り組みをしている人がいなかったですが、少しずつでも着実に、茶の実への取り組みや私たちの思いを知って興味を持っていただいた方が増えてきました。そして、その中には力を貸してくださる方もいました。そういう時に、この活動を続けてきて良かったと心から感じ、これからも続けていきたいと思うことができます。
edit&interview 平井莉生(FIUME Inc.)、text 庄司楓(FIUME Inc.)
photo LSスタジオ