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株式会社 緑門
「もったいない」を「ありがとう」に、茶の実から始まる茶産業改革。
ー苦難を乗り越え、緑門が切り拓く茶の実が進む道ー Vol.2
私たちが日頃親しんでいるお茶。その茶の木にできる”茶の実”について、知っている人はあまり多くないかも知れません。それもそのはず、茶の実は美味しい茶葉を作るためには必要とされないことから、茶業者の間でも使用されず、一般の人の目に触れることはなかったのだそう。株式会社緑門の下山田力さんは、そんな無価値とされてきたもののポテンシャルに目を向け、耕作放棄地を使って栽培を広げています。このコラムでは全四回に渡り、茶の実や緑門の活動についてご紹介します。今回は緑門を始めようと思ったきっかけや、活動をする上でどのように障害を乗り越えてきたのかについて詳しくお聞きしました。
株式会社緑門 代表取締役
茶の実の栽培から茶の実油の製造、ジェノベーゼなどの商品開発までを手掛ける株式会社緑門を創業。これまで茶産業で取り上げられることのなかった茶の実に着目し、耕作放棄地を再利用した栽培を全国で広げながら茶の実油づくりを普及している。また各地で生産に取組む有志と日本茶の実油協会を立ち上げ、茶の実の品質向上と市場の創出および、全国で茶の実油の生産者人口を増やす為に活動する。
下山田さんは株式会社緑門を立ち上げ、茶の実の栽培から茶の実油の製造、商品開発まで手掛けていらっしゃいます。どのようなきっかけでこの活動を始めたんですか?
もう10年以上前になりますが、前職をやめてから日本のカルチャーであり健康のためにも親しまれているお茶文化を海外に向けて発信できないかと考えていたんです。それから、当時はまだ黎明期だったオーガニックの和紅茶(国産紅茶)を仕入れて販売する仕事をスタートさせて、全国を回っていた時期がありました。そこで、茶葉の価格低下などによってお茶産業は苦戦を強いられていて、各地の茶農家の厳しい実情を知り、衝撃を受けたのです。問題のひとつが耕作放棄地。廃業するなどして管理されることなく、荒れ果ててしまった茶畑が全国で散見されました。でも結果、それが茶の実との出会いに繋がったんです。耕作放棄地を視察をしているときに、たまたま茶の実が落ちているのを見つけて、案内していただいた農家の方に、初めてそれが”茶の実”であることを教えてもらいました。それを搾ると素晴らしい油ができることも知り、興味を持ってさらに調べていくうちに、耕作放棄地も活かしようがあること、茶産業ではマイノリティとされる分野であまり人々に知られていないことなどが分かり、茶の実の大きな可能性を感じました。そんな中、茶の実油を原料として卸している嬉野の方々と出会います。油の作り方についての知識はあるものの、製品の売り方は定まっていないようで、その方達は地域の茶産業を活性化するためにその活動をしているとのことでした。その様子を見て、地方で何か茶の実を使って新しいものができないかと思うようになったんです。
それでは株式会社緑門は茶の実についての取り組みをするために立ち上げられたんですか?
日本のお茶文化を世界に発信するために無農薬農法で栽培されたお茶を仕入れて直販をしようと起業したのが2012年。茶の実と出会ったのはその年の年末でした。計画していたときに着目したのが”和紅茶”です。日本は緑茶文化が浸透していますが、日本で栽培した茶葉を使って作られた、和紅茶と呼ばれる渋みが少なくて独特の甘みのある美味しい紅茶があるんです。当時は、まだまだ栽培している和紅茶農家も少なく認知度も低かったので、バックグラウンドは茶の実と似ているかもしれませんね。オーガニックにこだわり自然に近い形で栽培している和紅茶農家も多く、茶の実が出来やすい環境が整っているので今でもお付き合いが続いています。
茶産業の中でマイノリティである分野ということでたくさんの障害を乗り越えてこられたかと思いますが、茶の実の栽培から収穫に関してはどのような苦労がありましたか?
今は、全国の茶農家の方や新しく茶の実栽培に携わってくれている方々の協力のもと栽培から収穫までを行っています。安定的に良質な茶の実を栽培するには、今の仕組みは全ての工程が手作業なので非常に難しいです。そういった問題を解決するために、誰がどこでどんな品種の茶の実を栽培しているかを明確にすることが求められています。現在全国に部分的な専門の畑がありますが、候補地として広大な土地があるので茶の実の栽培を構造化していきたいですね。そのために、地方の茶農家の方々や自治体の協力が必要で、行政を繋げていただきその土地での農業をしやすくしていただいています。
なるほど。搾油についてはどのようなハードルがありましたか?収穫からの流れを通して教えてください。
良質な油を作る準備として、”乾燥”はとても重要な工程です。10月くらいから茶の木に殻のついた茶の実が3つくらいの房になって生ります。それをもぎ取ったり地面に落ちたものを拾ったりして収穫を行い、殻のまま天日干しで10日から2週間ぐらいしっかり乾燥させるんです。このときに、乾燥が不十分な状態で絞ってしまうと水分が先に出て油がうまく出てこないので、乾燥はとても大事なんです。その後、選別して殻を割ります。実の中身を”仁”と呼ぶのですが、仁の状態で圧力をかけて油を抽出する圧搾という作業を行います。この工程では、非加熱で常温圧搾することにこだわっています。一般的な考えでは脂質が溶けて油がよく取れるので加熱をした方がいいとされていてますが、熱を均一に加えなくてはいけない、すごく難しい作業が必要です。効率よく油を抽出するために、常温のまま絞るシンプルな方法を採用しています。そのようにして茶の実油が完成したら、光や空気に一切触れないように保存します。
下山田さんにとって茶の実の魅力を広げていくというのもミッションのひとつだとお伺いしましたが、課題になってきたのはどういった部分ですか?
知られていない魅力や今まで茶産業ではフォーカスされてこなかったバックストーリーを知っていただくと、多くの人に茶の実に興味を持っていただけます。問題は情報をどう発信していくか。良いものを作り出すことは得意分野ですが、その後に魅力を広げていくためにどうしたらいいのか毎日のように話し合っています。2012年から始めた取り組みも、茶の実の特性もあり、地球や人にかかる負荷を少なくすることに繋がり今の時代の流れにもフィットしています。そういう背景をお客様に届けていきたいですね。
創業以来茶の実を通して多くの活動をされていますが、どのようなやりがいを感じていますか?
私たちは茶の実の栽培から収穫、茶の実油の搾油、そして商品化していただくまでに多くの方々の協力をいただいています。12年前は本当に私たちだけで取り組んできたので、担い手になっていただいている皆さんと茶の実について話しているだけで純粋に喜びを感じますね。始めた頃はこんなにたくさんの方が茶の実に興味を持ってくださるとは想像していなかったです。茶農家の中には世代交代して、伝統を継承しながらも新しいことをしたいという思いがある方々もいます。そういった方々が茶畑の管理などを調べていくうちに、茶の実や私たち緑門に辿り着き一緒に活動をしてくれることも本当に嬉しいです。これからも茶の実に興味を持ち新たな担い手になってくれる人をどんどん増やしていきたいと思っています。
茶の実油をどのように暮らしに取り入れることがおすすめですか?
茶の実油は、多くの可能性を秘めていると感じています。もちろんスキンケアとして日常的に使っていただくことはおすすめです。それ以外にも、緑門では食用の茶の実油や、グリーンティ・ジェノベーゼなどの製品を販売しています。スキンケアや食用にするためには高い品質が求められるんです。その基準に満たなかったものも、何かに活用できないかと研究を続けています。せっかく出来た茶の実油を無駄にしないように、もっと視野を広げて色々なプロダクトを作っていきたいです。最終的な夢は、「日本の油といったら茶の油!!」というイメージを持っていただける各家庭に1本あるような日本のSOUL(魂)油になることを目指しています。
edit&interview 平井莉生(FIUME Inc.)、text 庄司楓(FIUME Inc.)
photo LSスタジオ