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薬草が作り出す未来と新しい可能性 ー薬草の国産化に向けたこれからの取り組みー
コラム
2023.01.19

薬草が作り出す未来と新しい可能性
ー薬草の国産化に向けたこれからの取り組みー

玄海町薬用植物栽培研究所(以下、薬草園)で日々薬草に向き合い、地域と関わりながら様々なチャレンジを続けている園長の中島さん。薬草とは、地域の現状とは。中島さんの目を通して、これからの薬草に関する未来をお伺いしました。

中島 正明
Profile 中島 正明
玄海町立薬用植物栽培研究所 園長

佐賀県の試験研究機関にて野菜の品種・栽培・土壌に関する研究を中心に約20年従事し、3年前より薬草園園長に就任。長年培ってきた知見を活かし、薬草栽培の研究・普及などを日々行う。
最近では佐賀県と唐津市、玄海町が手を組み推進している化粧品原料開発という新しい取り組みの中で、薬草栽培に関する中心人物として活動。

まず初めに、中島さんについてお聞かせください。どのような経緯で薬草園の園長になられたのでしょうか?

私が園長になったのは3年前くらい。その前は県の農業試験センターで主に野菜の試験をしていました。例えば土地に合った品種の研究とか、新しい栽培法を試したり・・・といったものですね。
薬草に関わるようになったのは、そこにいた頃。唐津市が化粧品産業の一大拠点にしようという「コスメティック構想」というものを掲げました。そこに佐賀県も協力し、協議を重ねる中で選定されたトウキ・ミシマサイコ・サフランを中心に、化粧品原料化への取り組みが開始されました。実は薬草も野菜の一種ということで、私が農業試験センターにいた頃から試験に関るようになり、その知見を買われて退職後に玄海町の薬草園の園長をやらないかと声をかけていただいたのです。そういった経緯があって、今は薬草園園長として引き続き薬草栽培に関わる取り組みに携わっています。

もともとが野菜の研究をされていた、というのが意外でした。
中島さんがいらっしゃる前になってしまうと思うのですが、薬草園が設立された経緯はどのようなものだったのでしょうか?

ここは開所してから大体11年位になるのですが、玄海町を活性化するにはなにがいいかということをいろんな方に相談した際に九州大学の方から、「生薬の原料がよいのではないか」と聞いたのが始まりだと聞いています。
実は生薬の原料は、10年位前から輸入が少しずつ制限されてきていました。そんな中、多くの生薬の原料になっている甘草(かんぞう)というものがあるのですが、ほとんど国産のものがない。このまま制限が続けば、甘草を使ったものの活用が難しくなってしまう懸念がありました。なので制限が続く将来を見越して薬草の自給率をあげるために国産化を目指す、というのが一つのテーマになっていました。

ちょうど先日、薬草関係の研究会があってそこで聞いた話では、もう中国も自国での栽培が厳しくなっているようで、中央アジアとかの甘草を取ってきて、中国の工場で加工し、それを日本に輸出しているようです。実際、今も制限が続くこの状況を、当時どこまで考えていたかわからないですが・・・そういう中で、薬草の国産化を九州大学と玄海町が協定を結んで取り組んだというのが薬草園の設立のきっかけです。

薬草が作り出す未来と新しい可能性 ー薬草の国産化に向けたこれからの取り組みー

非常に重要なテーマを掲げて薬草園は設立されたのですね。
そんな薬草園での、日々のお仕事について教えてください。

大体朝7時前ぐらいには来て、温度調整などを自動で管理している全体のハウスの状況、機械の不具合がないかといった確認や育てている薬草の生育状況をチェック、そこから1日のスケジュールを組み立てます。
メインの作業としては協力してもらっている作業員さんの作業の調整、農薬や除草剤の登録数が少ない中で薬草を育てているので、虫や雑草の管理があります。
他には育苗の時期になると種子の調整、ペーパーポッド等の準備をして種撒きをし、出荷時期には農家の方が持ってこられた薬草の管理調製をしながら、出荷の前に最終チェックをしています。
すぐは出荷しないため、保存している中でカビが生えたり異物が作業中に入ることがありますので、出荷前にしっかり責任をもって検品作業を行っています。特にこういった出荷作業は、ほかの植物園や薬草園では行っていないので、ここならではの取り組みといえますね。

薬草が作り出す未来と新しい可能性 ー薬草の国産化に向けたこれからの取り組みー

栽培、加工、出荷・・・どの工程もとても手がかかっていて、様々な工夫をされているとのこと。今までのご苦労がうかがえました。ちょっと立ち返った質問になりますが、そもそも薬草とはどのようなものでしょうか。玄海町で育つ薬草の特徴はありますか?

薬草というのは薬機法で薬効が認められている植物ですね。ただ、定められている内容によっては生薬として使える部分、使えない部分があります。薬草園ではこの生薬に使われるような薬草と、いわゆる民間療法で伝えられている植物も育てています。
玄海町で育つ薬草の特徴としては、例えばサフランは、海外産に比べて非常に成分が高いという結果があります。他の薬草や野菜も同じように成分が高く、品質がいいと言われることが多いです。おそらく、この土地の土質が大きく影響しているようです。この特性を活かして、これから本格的に取り組みがはじまる化粧品原料のオリジナル化、というプロジェクトがあるのですが、より良いものを世に送り出していきたいですね。

今、力を入れている薬草や取り組みはありますか?

甘草のほかに今中心になっているのは、お茶などに使用されるドクダミです。ドクダミ栽培に力をいれるようになって、出荷数も結構増えてきました。それに伴って、幸いなことに農家の方の栽培も増えてきていますね。
あとはミシマサイコについても、様々な取り組みをしています。まずは栽培方法から見直し、従来の種を直接撒く栽培方法では発芽率が悪くうまく育たなかったところを、ペーパーポッドに種を撒いて苗の状態で植えることで安定した栽培ができるようになりました。このミシマサイコですが、薬効がある根っこについては出荷をしていたものの、生薬として扱われない根っこ以外の部分は今まで捨てていました。やっと安定して栽培できるようになったのに、捨ててしまう部分があるのはもったいないということで、お茶などに加工をしています。

薬草が作り出す未来と新しい可能性 ー薬草の国産化に向けたこれからの取り組みー

今まで捨てていたところを活用するというのは、とても素敵な取り組みですね。
薬草に日々どのような気持ちで向き合っているのか、大切にしている信念や想いがあれば教えてください。

例えば野菜とか、食料といったものは代替が他のものでもきくものが多いと想いますが、薬は代わりがきかない、大事なものですよね。合成の医薬品もありますが、やっぱり生薬の漢方薬がいい、合成のものがダメという方も多くいらっしゃいます。そういった方たちにとっては特に、生薬になる薬草というのは非常に大切なものです。
これも先日の研究会で聞いた話になるのですが、今食料時給率が6割って言われていて、もっと増やそうという動きがあるかと思います。でも生薬の自給率なんて10パーセントしかない、しかも輸入制限は年々厳しくなってきている。
そう考えるとより一層今取り組んでいる薬草に関する研究はとても重要なものだと日々感じながら向き合っています。

薬草に関する数々のお話をいただき、ありがとうござます。
農家の方とも連携する機会が多くあるようですが、近年農家の方の減少に伴い、耕作放棄地が増加しているというお話を聞きました。耕作放棄地について現状や、感じるところについて教えていただだけますか。

農家の方が減っているのには、高齢化が進み、年齢によって管理できないとか、そもそも地元にいないから管理できないといった様々な理由があります。そういう土地については地区内の協力によって、すぐ手が入れられるような状態で管理されているような土地もありますが、年々厳しくなってきているのが現状です。
その中で、特に耕作放棄地と言われるものについては、もはや木が生え、もう簡単には営農できないような場所になっている土地もあります。
薬草に携わるものとしての視点で見ると、耕作放棄地になってしまった土地の問題点は、意外と草の厄介さにあるのです。こういった土地の活用として薬草を植えるとしても、薬草は農薬、除草剤の散布量が少ないのでどんどん草が生えてきてしまい、正直植えた植物の見分けがつかないほど。実際、相談に来られた方で新しく薬草を育て始めた方もそれでだいぶ苦労されていました。何年もかけて整え直すことになるので、難易度が格段に上がります。 そういったところまで持っていかないように、地域で頑張って管理はしているようですが、なかなか難しい状況です。

一度荒れてしまうと立て直しはなかなか難しいのですね・・・。増加している耕作放棄地を活かしていくことは可能なのでしょうか。

最初はなかなか難しい話だと思います。そもそも私たちがイメージする耕作放棄地と、一般の方が思うものではイメージがだいぶ違うと思います。
立て直して活用していくには、何度も何度も田起こしをしてから、草の種といったものまで取り除くところまでしなければいけないと考えていますので、なかなか1年とかじゃ無理ですし、簡単にはいかないと思っています。
ただ、まずはそうなる手前の遊休地というすぐに手入れすれば営農できるような土地について、そういう取り組みをしていくことで、管理ができるような体制が取れるかと思います。そして時間はかかるかと思いますが、耕作放棄地になっているところもひとつ成功事例があれば、町、市、県単位で色々なところに波及して、営農、管理ができるような農地が増えていくのではないかというのが期待できますね。

薬草が作り出す未来と新しい可能性 ー薬草の国産化に向けたこれからの取り組みー

中島さんが描く、これからの展望、期待すること、こうなっていけばと思っていることはありますか?

なかなか厳しいのは厳しいですけども、細々としてでも、生き残るというか・・・。辞めてしまえば簡単ですが、やっぱり細々としてもやっていけば将来、芽が出てくる可能性があると思っています。
例えば私が試験場にいたころに扱ったもので、普通の大豆に比べてオレイン酸が高い、オレイン酸大豆といわれるものがあります。これは佐賀大学が開発した大豆ですが、佐賀大学の方がJAに相談行ったら、新種ということもあって色々な事情で断れていました。作るところを探す中で、私がいた試験センターに相談に来られて、私は「まあ面白いかな」と思って、作り始めてみたら徐々に広がってきて、熊本の方で商品化され形になっていきました。 これも別の話ですが、イチゴの栽培方法に不耕起栽培というものがあって、いまでは佐賀県では結構普及していますが・・・。これは最初、キュウリでやっていた栽培方法で、あるイチゴの優秀な農家さんがそれ見て「面白いね」って言われたのです。その方がイチゴでもその方法を取り入れて、私も有利性などのデータを取りはじめました。それが非常にここの土地にもあってて。当時色々な難関はありましたが、今ではイチゴは不耕起栽培が主流になっています。

こういった経験から、最初は難しいという話だったものも、いつの間にか広がっていったので薬草も色々と厳しい現状でもやっぱり頑張って、コツコツとでもやっていけば、将来芽が出るかなとは期待はしています。

薬草が作り出す未来と新しい可能性 ー薬草の国産化に向けたこれからの取り組みー

コツコツと、ですね。先ほどの耕作放棄地に通ずるものがあるように感じます。
これからの薬草や薬草栽培に関してのこれからのビジョンはいかがでしょう。

薬草事業に関連して、農業者の所得向上を目指すということです。薬草自給率を上げていくこと、行政としては農家所得の向上と、それぞれの観点から手を取り合い、まずは薬草農家を増やしてから栽培方法をより多く普及していきたいと思っています。
あとは企業との取り組みの中で、今まではロットがあまり大きくなく、農家さんの間でも薬草栽培があまり普及しませんでした。しかし来年以降本格化するプロジェクトは精油に関する事業なので、薬草の必要な量がかなり大きい。これが進めば、地域の方に対する雇用や新しい産業といった側面からも、大きな意味を持つという期待があります。

薬草が作り出す未来と新しい可能性 ー薬草の国産化に向けたこれからの取り組みー

地域を巻き込んでの大きな事業に期待が持てそうですね。
これからの将来に向けて、私たち消費者にできることはありますか?

野菜とかは国産っていうジャンルがあって、産地記載とかもありますよね。最近では色々なメーカーさんが国産のこだわりをもっていて、消費者の方も注目している方は多いと思います。
でも薬草、生薬に関してはそれがないです。この点が自給率にもつながっていると思っています。現状、薬草の自給率は10パーセントしかないという状況ですので、産地、国産というところに意識を向けて、ちょっとこだわってほしいなって思っています。品質が国産の方がいいから、とかだけではなくて、大事な薬として、将来のために。そういった面でも改めてこれからは国産っていうところに、注目してほしいという想いがあります。