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伝統を超えた、新しい日本茶の価値を求めて。 ー茶の実が繋ぐ未来の仮説を、若き茶農家が検証するー 前編
コラム
2024.04.01

伝統を超えた、新しい日本茶の価値を求めて。
ー茶の実が繋ぐ未来の仮説を、若き茶農家が検証するー 前編

お茶の木に宿る「茶の実」。これまではほとんど廃棄されていましたが、少しずつ活用方法を探る茶業者も登場しています(※過去記事を参照)。狭山茶の茶農園「的場園」もその一つ。的場園の四代目である的場龍太郎さんは、この「茶の実」にいち早く注目し、耕作放棄茶園を「茶の実園」として残すなど、常識にとらわれない日本茶の新しい形を模索しています。今回は、伝統的な製法に革新的なアイデアを組み合わせて時代に合わせたお茶づくりを行っている的場園の取り組みや、そこから見える茶の実と日本茶の可能性を、前編と後編に分けてお伝えします。前編では、若き茶農家である的場さんが茶業にかける思いや新しい商品に積極的に取り組む理由をお伺いしました。

的場龍太郎(まとばりゅうたろう)
Profile 的場龍太郎(まとばりゅうたろう)

埼玉県で狭山茶の栽培から加工、販売までを一貫して自社で行う的場園の四代目。「次世代への狭山茶・日本茶の継承」を掲げ、茶葉を使った食品の開発や、他業種や自治体と連携したイベントの開催などさまざまなプロジェクトにも挑戦し、広い視野で茶の性質や魅力を研究・発信している。

寒暖差がある狭山地域ならではの深くて濃厚な味わいが特徴の狭山茶を製造する的場園。まずは、四代目となる的場さんが茶業に携わるようになったきっかけを教えてください。

的場園は、妻の実家の家業なんです。私自身の前職は、今と全く違う建築業。妻と結婚して、この的場園を受け継ぎました。茶業は曾祖父の代に創業し、80年程続いていると聞いています。二代目が商売を拡大し、三代目が茶園や製造技術を高め、私はそれを次世代に繋ぐために日々努力しています。私の実家も建設業を営んでいたので、一から物を作りお客さんへ届けて喜んで頂くという点では、茶業との共通点も多いと感じています。

建築業という異なるキャリアからの転職だったのですね。ご自身が農園を受け継ぐまで、茶業についてどのようなイメージを持っていましたか。

以前は、お茶は飲料として無意識に飲む程度であまり関心がなく、本格的な 「日本茶」には敷居の高さを感じていました。しかし実際に関わってみると、知れば知るほど面白くて世界に誇るべき素晴らしい文化であることがわかり、それをもっと多くの人へ届けていきたいと考えるようになりました。 茶業の仕事は自然との勝負で難しい事も多くありますが、それを乗り越え良い新茶が出来た時の達成感は代えがたいものがあります。また、お茶を広めていく中で関わってくれた方の笑顔や感謝がそのモチベーションになっています。

生産者からお客さんまで、お茶を通して笑顔が広がっていったら嬉しいですよね。的場さん自身がお茶を好きになった、お茶の魅力に気づいたきっかけを教えてください。

妻との結婚が大きな契機でしたが、本当にお茶を好きになったのは自分が作ったお茶で人が 喜んでくれた時だと思います。ここ的場園でも、お茶を買いに訪れたお客様にはまずお茶を淹れるのですが、煎茶を飲んでホッとしたお客様の表情を見るととても嬉しいですね。

伝統を超えた、新しい日本茶の価値を求めて。 ー茶の実が繋ぐ未来の仮説を、若き茶農家が検証するー 前編

確かに、人に淹れてもらった煎茶には他にはない温かさがある気がします。的場さんから見て、茶業の魅力はどこにあると思いますか。

まずは、日本を代表する伝統文化の最先端を担える事の責任と誇りがあります。 加えて、自然と対話しながら茶園を管理したり、化学的な知見を学びより良いお茶を作る研究をしたり、皆さんが喜んでくれる商品を作り届けていくという仕事の全てを楽しめる所も魅力ですね。

お茶は、野菜やお米と違って、植えたらずっと同じ木で育て続ける永年作物。本当に家族のような農産物なんです。例えば中国だと数百年生きる木から茶葉を収穫して、お茶を作っているんですよ。的場園の木は私の代になってからほとんど植え替えてしまったのですが、当園の植え替え前の平均樹齢は30年程度でしょうか。自分と同じくらいの人生を歩んできたと考えるとすごく感慨深い。自分の子供のように愛情を注いで育てたお茶で人を笑顔にできるのはとても魅力のある仕事だと感じています。

優しく話しやすい的場さんが作り出す、「的場園」のお店の和やかな雰囲気もとても素敵です。的場園で販売しているお茶の特徴について教えてください。

特徴は大きく二つあって、まずは「品種」。日本に100種類以上のお茶の品種がある中で、全国で一般的に栽培されているのは「やぶきた」という品種です。的場園も元々やぶきたを栽培していたのですが、僕の代になってから「はるみどり」という旨みが強くえぐみが少ない品種がメインになっています。

もう一つは特許を取得している的場園独自の「製法」。先代が開発した強い熱を加えて作る特許製法で製造した「まろやかで香り高いお茶」が特徴になっています。一般的には、茶葉は色が変わったり匂いが揮発することを恐れて適度な温度で乾かすのですが、うちでは300度くらいの高温を当てることでまろやかでえぐみの少ないお茶にするという少し特殊な製法をとっています。

伝統を超えた、新しい日本茶の価値を求めて。 ー茶の実が繋ぐ未来の仮説を、若き茶農家が検証するー 前編

なるほど。的場さんの代になってから変えたところもあるのですね。日本茶の現状について的場さんはどのように考えていますか。

急須でお茶を淹れる文化が縮小してきている中で、お茶の新たな付加価値を生み出すのが私たち茶農家の使命です。そのために、次世代を担う若者や、海外の方にも日本茶の魅力を広めることが鍵になると考えています。

どうして若者に日本茶が広まらないのか、若者がお茶に対してどんな印象を持っているのか知りたくて、大学生などの若い世代によくアンケートをとっています。すると学生は「お茶の苦味や渋みが苦手」「アミノ酸など旨みがあるお茶が好み」ということが分かりました。日本茶の味わいも時代に合わせてアップデートしたほうがいいのではないかと思い、アミノ酸が多く含まれ、えぐみの少ないお茶を目指すように。100種類以上ある中から飲みやすい品種である「はるみどり」を厳選したのもその理由からです。新しいことに色々と手をつけているように見えるかもしれませんが、ただやみくもにチャレンジしているというよりも、仮説を立てて検証しているというのが近しいですね。だからどの商品も、きちんと開発背景まで説明することができます。

的場さんの代から新しく誕生した商品として具体的には「スパイスティー」や「グリーンティージェノベーゼ」などがありますよね。これらはどのような背景から開発されたのでしょうか。

新たな付加価値を生み出すためには、まだ誰もやったことがないこともやる必要があります。お茶はそれぞれの国の文化として定着しているからか、実は歴史的に見ても日本茶の輸出はあまり継続して成功していない。日本茶の文化をより多くの人に知ってもらうために、ハーブやスパイスなど他の国の文化を掛け合わせてみたのが「スパイスティー TeTe」です。同じように、お茶を食べるという新たな着眼点から誕生したのが「グリーンティー ジェノベーゼ」。完成した時は、「お茶を食べられるソースなんて歴史上初めてだろう!」と思ったのですが、調べてみると数千年前から中国の山岳民族が今のソースとほとんど同じようなレシピですでに食べていたなんてことも(笑)。ただユニークなものを作って話題性を狙っている訳でなく、日本茶が未来に繋がるもの、皆さんがより豊かになるものにどんな可能性があるのかを考えながらものづくりを行っています。

伝統を超えた、新しい日本茶の価値を求めて。 ー茶の実が繋ぐ未来の仮説を、若き茶農家が検証するー 前編
おすすめのお茶の組み合わせ

Tips おすすめのお茶の組み合わせ

チョコレート×玄米茶

お茶の渋味、玄米の甘味、焙煎の香りを兼ね備えた「玄米茶」はチョコレートとの相性ピッタリ。
最後は口のなかもすっきりと洗い流してくれます。

 

おにぎり×和紅茶

渋味が少なく、甘味のある「和紅茶」はお米の甘味とよく合います。
冷茶にしてピクニックやランチのお供にも。

 

サウナ×水出し茶

お茶にはミネラルやビタミンが豊富なのでサウナ後にピッタリ!

edit&interview 野沢愛也子(FIUME Inc.)
photo 植田翔